症例9:ネイルパテラ症候群

症例9:ネイルパテラ症候群

<解説>

ネイルパテラ症候群(爪膝蓋骨症候群)は遺伝性疾患で、以下の四徴候がみられ、しばしば腎症を発症し、一部は末期腎不全に進行する。

  1. 爪形成不全
  2. 膝蓋骨の低形成あるいは無形成
  3. 腸骨の角状突起(iliac horn)
  4. 肘関節の異形成

原因はLMX1B遺伝子変異。爪、膝蓋骨、腸骨などの変化を伴わず、腎症だけを呈するネイルパテラ症候群様腎症(nail-patella-like renal disease:NPLRD)や、巣状分節性糸球体硬化症患者にも、LMX1B遺伝子変異を原因とする例が存在する。これら一連の疾患群は、LMX1B関連腎症と呼ばれる。
上記で挙げた四徴候がみられるが、この内1つあるいは複数の症状のみを呈する場合がある。
また、緑内障・眼圧亢進がより高頻度に、より若年でみられる。
約半数に腎症を合併し、症状としては無症候性の蛋白尿や血尿がみられるが、高度蛋白尿やネフローゼ症候群を呈することがある。腎予後については高齢まで比較的保たれる場合が多いが、若年から腎機能低下を来し、腎不全に至る症例が一部存在する。

<画像の解説>

  • 単純X線写真
    爪、膝蓋骨、肘の症状から本症を疑えば、「骨盤のレントゲン撮影」を行い、腸骨の角状突起を確認し、これが認められれば診断する。

<鑑別診断>

  • 主項目
    爪の低形成あるいは異形成
    →手指に多く、特に母指側に強い。足趾にある場合は小指側が強い。
    程度は完全欠損から低形成まで様々である。
    生下時から認められることが多いが、軽症であると気づかれにくい。
  • 副項目
    1.膝蓋骨形成不全
    2.肘関節異常
    3.腸骨の角状突起
  • 遺伝学的検査
    LMX1B遺伝子のヘテロ接合体変異

<治療と予後>

  • 治療法
    ネイルパテラ症候群における爪、膝、肘関節の異常に対して、効果的な治療法はない。関節症状や緑内障に対して、手術療法が必要になる場合がある。
    腎症に対しては特異的な治療法は存在しないが、腎機能に応じた慢性腎疾患の治療を行う。末期腎不全に至った場合には維持透析あるいは腎移植を要する。
  • 予後
    腎症が生命予後を規定する。3~5割に腎症を合併する。小児期に発症することも多い。そのうち1~3割で末期腎不全へと進行する。
    LMX1B関連腎症は腎外合併症はなく、腎症(蛋白尿あるいは血尿)、腎機能障害を呈する。