症例14:感染性腸炎
<解説>
感染性腸炎とは、病原体が腸管に感染して発症する疾患。病原体には細菌、ウイルス、寄生虫などがある。
一般的には、夏には細菌性腸炎、冬から春にかけてはウイルス性腸炎が多く発生する。
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- 細菌性
生体外毒素産生型
黄色ブドウ球菌・ボツリヌス菌
- 細菌性
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生体内毒素産生型
腸炎ビブリオ・病原性大腸菌・リステリア菌
ウェルシュ菌
細胞侵入型
サルモネラ菌・カンピロバクター・赤痢菌
- ウイルス性
ノロウイルス・ロタウイルス
A 型肝炎ウイルス
E 型肝炎ウイルスなど主な腸炎として、以下の4つが挙げられる。
- ノロウイルス腸炎
ノロウイルスは冬季を中心に多発する散発性感染性胃腸炎、集団発生胃腸炎および食中毒の主要な原因ウイルス。感染性胃腸炎で最も多く、冬季に毎年流行する。
嘔気・嘔吐、下痢が主症状。特別な治療は必要とせず、自然によくなることが多い。乳幼児や高齢者及び体力の弱っている者では、下痢による脱水や嘔吐物による窒息に注意する必要がある。
ウイルスは症状が消失した後も約1週間(長い時には約1ヶ月)患者の便中に排泄される為、二次感染に注意が必要。
感染防止策として手洗いの励行、ウイルスを含む汚染物の処理が重要。汚染物(嘔吐物、便)の処理には洗剤ではなく次亜塩素酸ナトリウムを用いる。 - カンピロバクター腸炎
カンピロバクターは夏季を中心に多発する散発性感染性胃腸炎、胃腸炎集団発生および食中毒の主要な原因細菌。
食中毒統計では細菌性腸炎のなかで最も多い。報告数よりも推定感染者数が多いと言われるが、理由は軽症も多い、実際に検査しないことがあるなどが挙げられる。
下痢、腹痛、発熱が主な症状。嘔気、頭痛などもみられ、風邪やインフルエンザと間違われることもある。
熱発した患者の平均体温は38℃代と高いが、発熱は一過性で、1、2日で解熱することが多い。
通常は特別な治療は必要なく、数日で軽快することが多い。乳幼児、高齢者および体力の弱っている者では抗菌薬投与が必要なことがある。
感染源は鶏肉とその加工品、生レバーなどが多いが、牛や豚もみられる。食肉の過熱不足や調理過程でまな板や手指を介しての二次感染もみられる。
感染防止には鶏肉を生で食べないことが最も重要である。 - 腸管出血性大腸菌腸炎(O157腸炎)
ベロ毒素を出して、出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす大腸菌を腸管出血性大腸菌と呼ぶ。O157はこの腸管出血性大腸菌の代表的な細菌で、他にO26、O121、O111などもみられる。
ベロ毒素は強力で、とくに腎臓、脳、血管などに障害を起こす。ごくわずかな量で、実験に使われる培養細胞のベロ細胞を殺してしまうことからベロ毒素と名付けられた。
腸管出血性大腸菌は牛、豚などの大腸に生息している。糞便や糞便で汚染された水、食物を介して、ヒトの口に入り感染を起こす。感染力が強く、感染したヒトからヒトへも感染する。現在は生レバー禁止で減少効果がみられている。
腸管出血性大腸菌は少量の菌が口に入っただけで発症する為、非常に感染力が強い。胃酸に強く、ほとんどが死滅せずに腸に移動することが理由の1つ。
感染後4~8日で激しい腹痛、水様性下痢で発症し、翌日には血便を起こすのが典型的症状。
乳幼児や高齢者では抵抗力が弱いため重症化することがある。 - サルモネラ腸炎
細菌性腸炎の食中毒の中ではカンピロバクター腸炎に次いで多い。
下痢、腹痛、発熱、嘔気が主な症状であり、血便をきたすことがある。
高熱を伴い、自然に解熱することが多いが遷延することもある。
菌が腸粘膜深くまで侵入するため、細菌性腸炎の中では最も重症であり、小児や高齢者では菌血症、腎不全、髄膜炎、骨髄炎などの合併症を起こし死亡することがある。
通常は特別な治療は必要ないが、小児や高齢者、人工臓器を入れている場合などでは抗菌薬の投与が必要。
潜伏期は8時間から48時間と短く、患者自身が食中毒と気付くことが多い。
<画像の解説>
- CT
CT上では腸管の壁肥厚、周囲の脂肪織濃度上昇で感染性腸炎と判断は出来るが、何が原因かは内視鏡検査、血液検査での精査になる。
カンピロバクターは回盲部から右側に炎症所見があることが多く、サルモネラはカンピロに似て右側結腸に所見が多い。
<診断>
細菌性腸炎の診断は便や腸液を培養して検出する。結果がわかるまで数日必要。 培養の陽性率はあまり高くない為、培養が陰性でも感染性腸炎は否定できない。
ウイルス性腸炎の診断は、吐物や便からウイルスに特異的な物質や遺伝子の検出による。
<治療>
感染性腸炎は一般的には自然治癒傾向が強いため、治療の原則は対症療法。
乳幼児や高齢者などには抗菌薬が必要だが、そうでない場合は必要ないことが多い。
下痢に伴う脱水がある場合は、点滴による輸液を行う。