症例26:Chiari奇形

症例26:Chiari奇形

<解説>

キアリ奇形は、小脳の一部(小脳扁桃)が頭蓋骨の下縁にある大後頭孔を通って頚椎の脊柱管の中に脱出・陥入した状態。その脱出・陥入した小脳が脳幹を圧迫したり、頭蓋骨と頚椎の境界部分(頭蓋頚椎移行部)で脳脊髄液の通過を障害したりして、症状を来す。

キアリ奇形は、脱出した脳組織や合併する疾患によって1~4型に分類される。

  • キアリ奇形1型:
    小脳扁桃のみが脊柱管内に下垂するもので、後頭骨の低形成が原因と言われている。通常は単独の疾患だが、ときに水頭症や頭蓋骨縫合早期癒合症、脳腫瘍、脊髄係留症候群などの疾患によって、二次的にキアリ奇形1型を認めることもある。
  • キアリ奇形2型:
    小脳虫部の下部、延髄、橋、第4脳室が変形や伸展をしながら下垂する。通常脊髄髄膜瘤を伴い、水頭症も合併。アーノルド・キアリ奇形とはこの2型のことを指す。
  • キアリ奇形3型:
    小脳、脳幹が頭蓋頚椎移行部の嚢胞内に下垂したもの。
  • キアリ奇形4型:
    小脳の無形性、低形成で小脳は脊柱管内に陥入しない。現在はキアリ奇形に含めないという考えが一般的。
    ※3型、4型の頻度はいずれもまれで、ほとんどが1型、2型です。

脊髄空洞症は脊髄内に脳脊髄液が貯留した状態のことをいうが、キアリ奇形では、頭蓋頸椎移行部での髄液通過障害や頭蓋内・脊柱内圧差に関連して脊髄空洞症をしばしば伴う。

<症状>

      • キアリ奇形1型:
        頭痛、頚部痛が頻度の高い症状で、めまい、眼振、誤嚥、嗄声、歩行障害などを生じることも。咳やくしゃみによって頭痛が誘発されることが特長の1つ。
        合併する脊髄空洞症によって、腕から手にかけてのしびれ、筋力低下を自覚することが多く、症状は何年もかけてゆっくり進行する場合がある。
        小児期では年齢によって症状が異なる。
        ■0~2歳では嚥下障害や胃食道逆流、いびき、睡眠時無呼吸など
        ■3~5歳以上では脊髄空洞症の合併の頻度が増加、空洞症の症状や脊椎側彎、頭痛など
  • キアリ奇形2型:
    出生直後は少なく、多くは乳幼児期に発症。症状は年齢によって異なる。
    ■2歳以下では嚥下障害、呼吸障害が主で、重症例では早期に気管切開や胃瘻が必要になることも。
    ■2歳以上ではキアリ奇形1型と似た症状。症状が出た場合、準緊急的な対応が必要。

<合併症>

■ 脊髄空洞症
■ 水頭症

<画像の解説>

■ MRI
頚椎MRIを行うことで診断可能。
小脳扁桃が脊柱管内に5mm以上、下垂していたら異常。特に、12mm以上では、ほぼ全例で有症状。

<治療と予後>

脊髄髄膜瘤に伴う奇形であるため、髄膜瘤の修復術が必要。
水頭症の治療時期を含め、患者さんの状態により治療法が異なる。

キアリ奇形1型:
大孔部の小脳・脳幹圧迫、またその周囲の脳脊髄液の循環障害を解除することで、外科的治療が必要。
基本的には、大後頭孔減圧術、および、第1頚椎(C1)椎弓切除術に加えて、硬膜形成術を行う。
キアリ奇形1型の 80-90%は手術により症状が改善し、予後良好で、通常の生活を送ることが可能。

キアリ奇形2型:
合併する脊髄髄膜瘤の修復術と水頭症に対する治療が優先。
これらの治療にもかかわらず症状が出現した場合、キアリ奇形に対する減圧術が必要。
大後頭孔から小脳が下垂している頚椎部分まで、十分な後方減圧を行う。
キアリ奇形2型で症状が出ている場合には、約1/3は永続的な神経脱落症状を伴い、約15%は3歳までに死亡することがあるともいわれている。
特に年少期に症候性となった場合の予後は不良。
小児の脊髄髄膜瘤は、キアリ奇形2型による症候を早期にとらえて、準緊急的な対応を要する。

※脊髄空洞症に対しては、上記のごとく、原因となっているキアリ奇形の治療を優先させることが一般的。
ただし、キアリ奇形の治療を行っても、脊髄空洞症に改善が見られない場合には、空洞ーくも膜下腔短絡術などの手術を行う。