症例6:縦隔成熟嚢胞性奇形腫
<解説>
成熟型縦隔奇形腫はGerm cell tumorの一種で、3胚葉由来の腫瘍であり、縦隔腫瘍中、約10%を占める。
偶然胸部単純X線で発見されることが多く、診断時無症状なことが多いが、ときに発熱、胸痛、咳嗽、呼吸困難なの自覚症状を呈することもある。
脂肪を呈する画像所見より縦隔奇形腫が疑われる。嚢胞の内面は、重層扁平上皮によって覆われており、上皮下には皮膚付属器や消化管、気管支、膵組織などの組織が認められた。未熟な組織成分はなく、成熟型縦隔奇形腫と診断。
成熟型縦隔奇形腫は、良性のものが多く、予後は比較的良好であるが、約12~13%で悪性化するとの報告がある。
胸部単純レントゲンで偶然発見されることが多く、約60%が診断時無症状。
胸部CT上、嚢胞性腫瘤を呈することが多く、壁の肥厚、石灰化、脂肪の存在が特徴的な所見であり、奇形腫を強く疑う根拠となる。
しかし、石灰化や脂肪を全く認めない例も15%ほど存在。気管支嚢胞、胸腺腫、心膜嚢腫などの嚢胞性腫瘍との鑑別が必要。
CTで明らかな脂肪成分が証明できない場合でも、MRIを追加することにより、同成分の存在を示唆する不均一な信号を認めることが多く、有用。
胸痛を伴う症例では、解離性大動脈瘤が鑑別として挙げられるが、造影CTにより診断は容易である。
縦隔奇形腫が肺への穿孔を来たし感染を合併した場合、肺化膿症として治療されているとの報告もあるため、鑑別として重要。
穿破の頻度は約30%といわれており、肺内・気管支に多く、他に胸腔・心嚢・大血管におこることもあり、重大な合併症を伴うことがある。
画像上、穿破のサインとなり得るのは腫瘤内が不均一であること、近接する臓器(肺実質、胸膜、心膜など)に変化があること。
穿破の原因としては、腫瘍の増大による壁の虚血、腫瘍内で分泌される消化酵素による融解、感染によるものが考えられている。
腫瘍組織中に膵組織を認め、炎症反応はあるものの、感染を疑わせる所見に乏しかったことから、腫瘍の穿破は消化酵素による壁の融解が原因と思われる。
また、疼痛の原因は胸腔内に漏れた消化酵素による胸膜刺激症状のためと推測。
<画像の解説>
- 単純X線写真
胸部X線では縦隔陰影の拡大、縦隔から突出する腫瘤影、縦隔内臓器の圧排所見がみられる。奇形腫では中に石灰化をみる。 - CT
胸部CT上、嚢胞性腫瘤を呈することが多く、壁の肥厚、石灰化、脂肪の存在が特徴的な所見であり、奇形腫を強く疑う根拠となる。
画像上、穿破のサインとなり得るのは、腫瘤内が不均一であること、近接する臓器(肺実質、胸膜、心膜など)に変化があること。
腫瘍の位置、腫瘍の性状、周囲臓器との関係、浸潤の有無が詳細にみえる。 - MRI
CTで明らかな脂肪成分が証明できない場合でも、MRIを追加することにより、同成分の存在を示唆する不均一な信号を認めることが多く、有用。
MRIは腫瘍内部の性状、心血管や胸壁への浸潤の評価にすぐれ、囊胞性疾患ではT2強調画像で内部が均一な高信号を示す。
<鑑別診断>
- 気管支嚢胞、胸腺腫、心膜嚢腫などの嚢胞性腫瘍
- 胸痛を伴う症例では、解離性大動脈瘤が鑑別として挙げられるが、造影CTにより診断は容易。
- 肺化膿症:縦隔奇形腫が肺への穿孔を来たし感染を合併した場合、肺化膿症として治療されているとの報告もあるため、鑑別として重要。
<治療と予後>
良性のものが多く予後は比較的良好であるが、約12~13%で悪性化するとの報告がある。
縦隔奇形腫が肺への穿孔を来たし感染を合併した場合、肺化膿症として治療されている。